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陸上長距離の練習メニュー・理論はダニエルに学べ!(中学・高校)②

前回はダニエルズのVDOT表から自分の練習レベルを確認することと、表に書かれてある5つのペースの大まかな内容を確認しました。

前回の内容はこちら

 

今回は、伸ばしていくべき体の機能と、VDOT表のペースの活用について確認していきます。どの部分を伸ばそうと思って練習をするのかを理解しておくことは非常に重要です。ダニエルズは「刺激に対して反応するのは刺激に対する組織だ」としています。一つの練習ですべての機能を伸ばすことはできないということです。なお、ここでは筋力や動きについては述べませんが、もちろん重要な要素です。

 

伸ばしていくべき機能

  

 

毛細血管の発達

長距離走は有酸素運動と言われているだけあり、走っている最中はたくさんの酸素が必要になります。呼吸で吸い込んだ酸素は、血管を通じて体中に届けられます。毛細血管は長時間の有酸素運動で発達していきます。長距離選手の長時間の有酸素運動と言えば、ジョグですよね。

ペースを設定しないLSD(ロング・スロー・ディスタンス=長くゆっくり距離を走る)をクロスカントリーコースなどで行うのが良いとされています。

ダニエルズ理論では、EasyPaceで走ることが良いとされてます。イージーなペースとはいっても、ペースを決めずにのんびり走ることと比べると疲れますが、それでも会話をしながら走っていける程度のペースです。ペースを上げすぎると有酸素運動ではなくなってしまうし、あまりに遅くても酸素の取り込みが少ないため効果が低い。EasyPaceは、有酸素運動としてもっとも効果が高いラインを示しています。中学生30分~60分、高校生~90分くらい、または距離を決めて(中学生8km~)走っていくといいです。

ジョグは負荷の大きい練習の翌日に行われることが多いと思うので、疲労の具合によって調整が必要ですが、このペースで走って大きな負荷がかかるということはありません。

 

 LTラインの向上

ここがダニエルズ理論の中心的な部分ではないかと思います。

運動をするときには糖と脂肪が主に使われます(クレアチンリン酸というものも使いますがここでは述べません)。

有酸素運動、いわゆる軽いジョギングなど負荷の低い運動(心拍数があまりあがらない)では、酸素をとりながら脂肪をエネルギーとしています。ジョギングがダイエットにいいのはこのためです。また、乳酸(体が重くなる、きつくなるあれです)もエネルギーとして使われます。有酸素運動の利点は長く続けられることですが、酸素・脂肪・乳酸からエネルギーを作るのは無酸素運動と比べ時間がかかるため、負荷が大きくなってくるとエネルギーの生産が間に合わなくなってきます

一方無酸素運動、いわゆるダッシュなどの負荷の高い運動(心拍数が上がる)では糖をエネルギーとして使っています(解糖系といいます)。そして乳酸を発生させます。素早く大きなエネルギーを作れることが利点ですが、MAXパワーで使うと(前述のクレアチンリン酸も合わせて)およそ40秒でなくなります。そしてたくさんの乳酸が発生し、苦しくなります。

 完全な有酸素運動や無酸素運動というのはなく、どちらの割合が高いかということになります。軽いジョギングも少しは糖を使い乳酸も発生しますが、その乳酸もエネルギーとして消費されます。だからジョギングは長く続けることができます。

ではスロージョグから全力まで徐々にペースを上げていくとどうなるのか?

最初は有酸素運運動の割合が高く、酸素と脂肪、乳酸をエネルギーとしながら走っていきます。ペースが上がると息が上がってきます。エネルギーをたくさんつくるため、増えてきた乳酸を分解するために酸素を体が欲するからですね。さらにペースを上げていくともっと息が上がり、体が徐々に重くなってきます。これは無酸素運動の割合が増え、発生する乳酸の分解が間に合わなくなってくるからです。最後にダッシュ、走り終えても息が荒い。走っている最中に分解が間に合わなかった乳酸を処理するためです。

有酸素運動:エネルギー生産(遅)=出力パワー(小)、継続時間(長)

無酸素運動:エネルギー生産(速)=出力パワー(大)、継続時間(短) 

前置きがとても長くなりましたが、LT(Lactate Threshold:乳酸性閾値、もしくはAT(Anaerobic Threshold無酸素性閾値))とは、有酸素運動の割合よりも無酸素運動の

 割合のほうが多くなってくるポイント、言い換えれば乳酸の分解が間に合わなくなるポイントのことです。運動強度(ランニングペース)に比例して乳酸量は増えていきますが、LTの少し手前から増える割合が増加します。そしてLTを超えるとと乳酸がどんどん溜まり、ペースを維持できなくなります。このLTのラインを向上させることが、長距離のパフォーマンスには大きく影響します。

ではどうすればLTラインは向上するのか?

それは、LT付近のペースでしっかり走りこむことです。テンポ走(アメリカではペース走のことをテンポ走といいます。ダッシュ等ではなく、いわゆるペース走のことです)を行うとき、ペースが速いほど効果が高いように思うかもしれませんが、LTをこえる(けどインターバル走のペースよりはかなり遅い)テンポ走(ペース走)は遅いインターバルをしているようなもの。LTラインの向上にもつながらず、VO2maxを伸ばすためにも効果が低い、焦点のぼやけた練習になってしまいます。

ダニエルズ理論では「ThresholdPaceで20分以上走る、もしくはクルーズインターバル(5分以上走ることを短いRest(つなぎのスロージョグ)をとりながら繰り返す)」が効果が高いとしています。

「20分以上」で行う場合は、3000m8分55秒、VDOT67の選手でThresholdPaceは3分21秒となっているので、ほとんどの中学生は多くても6000mまでの距離を続けて走ればよいということですね。「クルーズインターバル」なら1500mを5分01秒5で走って100mを1分でつなぐ(レベルに関係なく距離は1500m、つなぎは100m1分程度)インターバルを4~5本ということになります。高校男子なら8000m、もしくは1500m×6~8本はいきたいところです。

また、20分、1500mにとらわれず、「3000m+2000m+1000m」などのように距離に変化をもたせておこなうのもいいと思います。このメニューだと、ラストの1000mは少しペースを上げてもいいかもしれませんね。

ダニエルズはこのTresholdPaceを「ここちよいきつさ」と表現していますが、そんなに心地よくはないですね笑。マラソントレーニングをしている人にとってはそうなのかもしれませんが、「20分以上」続けて走ると、なかなか疲れます。中学初心者(と言っても入部直後ではないですよ)はまず3000mをこのペースでしっかり走るというところからスタートしていくといいですね。

 

VO2maxの向上

 

VO2max(最大酸素摂取量)とは、呼吸をするたびどれだけの酸素を体内に取り込めるかという指標です。肺活量とは違い、吸い込んだ酸素の量ではなく、体内に取り込んだ酸素の量です。トップランナーも肺活量は普通の人とそんなに変わりませんが、普通の人と同じように酸素を吸い込んでも、それを効率よく体内に取り込むことができます。

酸素を取り込む必要性については「LTラインの向上」のところでも述べました。VO2maxが高いということは、有酸素運動で走れるペースが上がり、乳酸の分解もより強くなります。

VO2maxを高めるためには心拍数を上げる(最大心拍数の98%以上)トレーニングが必要です。そして、VO2max到達時間が長いほど効果が高いので、いわゆるスピード練習、速いペースでのインターバル走などを行うわけです。

ダニエルズ理論では、IntervalPaceで3~5分、つなぎは疾走時間と同じかそれより少なくすることとされています。先ほど例に出した3000m8分55秒、VDOT67の選手でいえば、1000mを3分05秒、つなぎ200m2分くらいで数本走っていくことになります。

ただし、ダニエルズは、前回も述べたように、マラソントレーニングを強く意識したものなので、1000mなら8本とか10本を走っていくつもりで書いていますので、中学生にはちょっとそぐわないかなとも思います。中学生であれば多くても3本、高校生もシーズン中は5本くらいだと思うので、IntervalPaceで1000mを行う場合は、つなぎの200mはある程度のペースでつないでいきたいですね。というのも、IntervalPaceで1000mを走るとき、スタートした直後からVO2maxに到達するわけではありません。スタート直後って、楽ですよね。後半に差しかかってようやくVO2maxに到達します。1本終わったあとゆっくり休んでしまうとまたVO2maxに到達するまで時間がかかるので、つなぎを速く、もしくは短くすることで、心拍数の低下を防ぎ、1本の1000mの中でよりVO2maxの時間を長くすることができます。ただし、それで3本なら3本が最後まで設定ペースで走りきれないようでは意味がありません。ペースが維持できなくなった状態では苦しいばかりでVO2maxまで到達することができないからです。練習メニューがやむを得ず途中でこなせなくなった場合は、スパッと切り上げて、別のできる練習(短いレペ系)などに切り替えたほうがいいですね。

遅いペースで遅い(長い)つなぎ:VO2maxへの刺激(小)→本数をこなすことが必要

速いペースで速い(短い)つなぎ:VO2maxへの刺激(大)→本数は↑より少なくて可

 実際には1000m以下ののインターバルも頻繁に行うと思いますが、それについてはまた別のページで触れていきたいと思います。ちなみにIntervalPaceで400mのインターバルを行うと、けっこうたくさん本数をこなさなければなりません。

 

酸素債の向上

乳酸の分解が間に合わなくなると体にたまっていき、体がきつくなっていく、そしてゴール後の荒い呼吸で分解していくということを先に述べました。乳酸の分解が間に合わないときとは、速いペースで走り有酸素運動ではエネルギー生産が間に合わず、無酸素運動(解糖系)の割合が増えている状態です。このときは、別の言い方をすれば、有酸素運動が足りないエネルギーを無酸素運動(解糖系)から借金している状態といえます。お金持ちの人ほどクレジットカードの限度額が大きいように、ハイレベルな選手はより多くのエネルギーを借りてくることができます。乳酸をたくさん出せるということは、たくさんのエネルギーを生産することができるということです。これを酸素債といいます。

酸素債向上のためには、IntervalPaceよりも、さらに強度の高い練習を行う必要があります。その指標となるのがRepetitionPaceです。距離的には400m以上で行ったほうがいいでしょう。ダニエルズは、インターバル形式で、つなぎは疾走時間の2~3倍(400mを70秒で走るなら2~3分30秒程度)、もしくは疾走距離と同じ、つまり400mをJOGでつなぐとよいとしています。

ペース走等のあとに入れる場合であれば400m×2~3本、これのみを行うのであれば5本くらいはいきたいところです。

 

ランニングエコノミーの向上

エコノミーとは「経済的」「節約」などをあらわす言葉です。おなじ能力でも、なるべくその力が十分発揮されるよう、また余分に疲れないよう経済的に走りたいものです。もちろん上記の毛細血管やLT値、VO2maxや酸素債の向上により、トレーニングをしていない人に比べて経済的にエネルギーを使えるようになりますが、それ以外の要素としてフォームや力を込める感覚など、身体能力ではない部分も影響してきます。

ダニエルズは、RepetitionPaceで、正しい走動作でもがき苦しんだりせずに走ることはランニングエコノミーの向上につながるとしています。

また、レースより少し短い距離、3000m選手なら2000m、1500m選手なら1200mなどをレースペースで走ることをやっていくことで、レースでの苦しさの間隔や力の込め具合などをつかむこともできます。登山をする場合に、同じ山を一度目に上るときと二度目に上るときでは、二度目の方がより少ないエネルギーで登れるはずです。どこで休憩できるのか、どれくらいのペースで登っていけばいいのか、トイレはどこにあるのかなど、わかっていると上りやすいですよね。

動きについてはここではくわしく記述しませんが、短距離的なドリルや短距離走、ミニハードルの使用などでフォームや重心移動等について学ぶことも大切です。

ビートランニング、インターロックという音楽をつかったトレーニングがありますが、長距離選手にもかなり有効だと思います。

 

以上ここまで、体の伸ばし手くべき機能と、VDOT表の活用について確認してきました。次回は、これらをもとにより具体的なメニューについて確認していきます。